「ああ、間違えて大切な写真フォルダを消してしまった!」 「フォーマットしますか?の表示に『はい』を押してしまい、中のデータが全部…」 「突然、USBメモリが認識されなくなり、中のファイルが開けない…」
デジタルデバイスが生活に不可欠となった現代、このようなデータ消失のトラブルは誰にでも起こりうる悪夢です。仕事の重要書類、思い出の写真や動画、長年かけて収集したコレクションなど、失いたくないデータはたくさんありますよね。
しかし、諦めるのはまだ早いかもしれません。多くの場合、削除されたデータはすぐには完全に消滅せず、適切な対処をすれば取り戻せる可能性があります。そして、その強力な味方となってくれるのが「データ復元ソフト」です。特に「無料」で利用できるソフトは、緊急時にまず試してみたい選択肢と言えるでしょう。
この記事では、2025年5月現在の最新情報に基づき、おすすめの無料データ復元ソフトを5つ厳選し、それぞれの特徴や使い方、メリット・デメリット、そして安全に利用するための注意点まで詳しく解説します。万が一の事態に備え、そして実際にトラブルに見舞われた際に、この記事があなたの大切なデータを取り戻すための一助となれば幸いです。
第1章:データ復元の基礎知識 – なぜ消えたはずのデータが戻ってくるのか?
データ復元ソフトがどのようにして「消えたはずのデータ」を取り戻すのか、その基本的な仕組みを理解しておきましょう。
1.1 データが「論理的に」消える仕組みとは?
私たちがパソコンやスマートフォンでファイルを「削除」すると、多くの場合、データそのものが瞬時にハードディスクやメモリから完全に消去されるわけではありません。実際には、ファイルシステム(データを管理している目次のようなもの)上で、「このファイルは削除されましたよ」という印が付けられ、そのデータが保存されていた領域が「空き領域として再利用可能」とマークされるだけなのです。
この状態を「論理削除」と呼びます。データの実体はまだ残っているものの、OSからは見えない(アクセスできない)状態になっている、とイメージしてください。
1.2 データ復元の基本的な仕組み(ファイルシステムの痕跡を辿る)
データ復元ソフトは、この論理的に削除されたファイルの痕跡をディスク上から探し出します。主な手法は以下の通りです。
- ファイルシステムの解析: ファイルシステムに残っている管理情報を解析し、削除されたファイルの場所や構造を特定しようとします。ファイル名やフォルダ構造が比較的保持されやすい方法です。
- シグネチャスキャン(RAWスキャン): ファイルの種類ごと(JPEG、Word文書など)に固有のデータパターン(シグネチャ)をディスク全体から直接スキャンして探し出します。ファイルシステムが破損している場合でも有効ですが、ファイル名や元のフォルダ構造は失われることが多いです。
これらの手法を駆使して、まだ上書きされていないデータ領域からファイルを再構築し、救い出すのがデータ復元ソフトの役割です。
1.3 データが完全に復元できないケース(上書き、物理障害など)
残念ながら、どのような状況でもデータが100%復元できるわけではありません。以下のようなケースでは、復元が困難または不可能になります。
- データの上書き: 削除されたデータが存在していた領域に、新しいデータが書き込まれてしまうと、元のデータは完全に破壊され、復元は極めて困難になります。これが、データ消失後に「何もしない」ことが推奨される最大の理由です。
- 物理障害: ハードディスクのヘッドクラッシュ、水没、落下による衝撃など、記録媒体自体が物理的に損傷している場合、ソフトウェアだけでは対応できません。専門のデータ復旧業者による物理的な修復作業が必要です。
- SSDのTRIMコマンド: SSD(ソリッドステートドライブ)には、削除された領域を効率的に再利用するためにTRIMコマンドという機能があります。これが有効になっていると、削除されたデータは比較的早期に実際に消去されるため、復元が難しくなります。
- 完全消去ソフトの使用: データを復元不可能な状態にするために、専用の完全消去ソフトで処理されたデータは基本的に復元できません。
- 暗号化: ドライブ全体やファイルが高度に暗号化されており、復号キーが不明な場合、データが読み出せません。
1.4 データ復旧作業前の最重要鉄則:「何もしない」が最善の初動
データ消失に気づいたら、パニックにならずに、まずは落ち着いて以下の鉄則を守ってください。
- 復元したいデータが保存されていたドライブ(PCの内蔵ドライブ、USBメモリ、SDカードなど)への一切の書き込み操作を停止する。 これには、新しいファイルの保存、ソフトウェアのインストール、インターネットの閲覧(キャッシュが書き込まれるため)なども含まれます。
- 可能であれば、そのデバイスの使用を直ちに中止する。 OSがバックグラウンドで何らかの書き込みを行う可能性もゼロではありません。
この初動が、データ復元の成功率を大きく左右します。
第2章:無料データ復元ソフトの賢い活用法 – メリットと限界を理解する
無料のデータ復元ソフトは非常に魅力的ですが、そのメリットと限界を正しく理解しておくことが重要です。
2.1 無料ソフトの主なメリット(コストゼロ、手軽さ)
- コストがかからない: 最大のメリットです。高価な有料ソフトを購入する前に、まずは無料で試せるのは大きな利点です。
- 手軽に入手・試用できる: インターネットから簡単にダウンロードでき、すぐにデータスキャンを開始できます。緊急時にも迅速に対応可能です。
- 機能が限定的だからこそシンプル: 一部の無料ソフトは機能が絞られている分、操作がシンプルで初心者にも扱いやすい場合があります。
2.2 無料ソフトの限界と注意点(復元率、機能制限、安全性リスク)
一方で、無料であることにはいくつかの限界や注意点も伴います。
- 復元できるデータ容量やファイル数に制限がある: 多くの無料版ソフトでは、「〇〇GBまで」「〇〇ファイルまで」といった復元上限が設けられています。大量のデータを復元したい場合には不向きです。
- 機能制限: 高度なスキャン機能(RAID構成からの復元、起動しないPCからの復元など)や、特定のファイル形式のプレビュー機能などが利用できない場合があります。
- 復元率が有料版より低い場合がある: より高度なアルゴリズムやスキャン技術は有料版に搭載されていることが多く、無料版では復元率が劣る可能性があります。
- テクニカルサポートがない、または限定的: 問題が発生した際のサポートは期待できないことが多いです。
- 広告表示や不要なソフトのバンドル: ソフトの利用中に広告が表示されたり、意図しない他のソフトウェアのインストールを推奨されたりすることがあります。
- 安全性の懸念: 提供元が不明確なソフトや、非公式サイトからダウンロードしたソフトには、マルウェアやスパイウェアが混入している危険性があります。必ず信頼できる公式サイトからダウンロードしましょう。
2.3 有料ソフトとの比較:どんな場合に有料ソフトを検討すべきか
無料ソフトで十分な結果が得られない場合や、より高度な機能が必要な場合は、有料ソフトの導入を検討しましょう。
- 無料版の容量制限を超えるデータを復元したい場合
- より高い復元率を期待したい場合
- 起動しないOSからのデータ救出、RAID構成からの復元など、特殊な状況に対応したい場合
- 技術サポートが必要な場合
- 仕事で使う重要データなど、絶対に失いたくないデータを復元したい場合
有料ソフトは数千円から数万円程度と価格帯は様々ですが、多くの場合、無料版でスキャンとプレビューまでは行え、復元可能なデータを確認してから購入できる「トライ・ビフォア・バイ」方式を採用しています。
第3章:失敗しない!無料データ復元ソフト選びの6つの重要ポイント
数ある無料データ復元ソフトの中から、自分の状況に最適なものを選ぶためには、以下のポイントを確認しましょう。
3.1 対応OSと言語(Windows, Mac, 日本語対応か)
まず、お使いのコンピューターのオペレーティングシステム(Windows 11/10/8/7, macOS Sonoma/Venturaなど)に対応しているかを確認します。また、操作画面やヘルプが日本語に対応していると、初心者でも安心して利用できます。
3.2 対応デバイスとファイルシステム(HDD, SSD, SDカード, NTFS, FAT32など)
どのデバイスからデータを復元したいか(内蔵HDD/SSD、外付けHDD、USBメモリ、SDカード、デジタルカメラなど)を確認し、ソフトがそのデバイスに対応しているかを見ます。また、ファイルシステム(Windowsで一般的なNTFS、USBメモリやSDカードで使われるFAT32/exFAT、MacのAPFS/HFS+など)への対応も重要です。
3.3 対応ファイル形式(写真、動画、ドキュメントなど)
復元したいデータの種類(写真: JPEG, PNG, RAW / 動画: MP4, MOV, AVI / 文書: DOCX, XLSX, PPTX, PDF / 音声: MP3, WAVなど)に対応しているかを確認します。多くのソフトは主要なファイル形式に対応していますが、特殊な形式の場合は事前に確認が必要です。
3.4 復元能力とスキャンオプション(クイックスキャン、ディープスキャン)
削除されたばかりのファイルや軽度の論理障害であれば「クイックスキャン」で短時間に見つかることがあります。しかし、フォーマットした場合やファイルシステムが大きく破損している場合は、より時間をかけてディスク全体を詳細にスキャンする「ディープスキャン」(フルスキャン、RAWスキャンとも呼ばれる)機能が不可欠です。このディープスキャン能力の高さが復元率に影響します。
3.5 操作性とユーザーインターフェース(初心者向けか)
特に初心者にとっては、操作画面が直感的で分かりやすいかどうかが重要です。ステップバイステップで指示してくれるウィザード形式のソフトや、復元可能なファイルがプレビュー表示できる機能があると便利です。
3.6 安全性と信頼性(開発元、広告の有無、マルウェアの危険性)
ソフトの開発元が信頼できる企業や団体であるか、長年の実績があるかなどを確認しましょう。ダウンロードは必ず公式サイトから行い、出所の不明なサイトからのダウンロードは避けてください。また、過度な広告表示や、不要なソフトを同時にインストールさせようとするものは避けた方が無難です。
第4章:【2025年版】プロが選ぶ!無料データ復元ソフトおすすめ5選徹底比較
これらの選定ポイントを踏まえ、2025年5月現在でおすすめできる無料データ復元ソフトを5つご紹介します。それぞれの特徴を比較し、ご自身の状況に合ったソフト選びの参考にしてください。
4.1 Recuva (Windows)
- 特徴・強み: CCleanerなどで有名なPiriform社(現在はAvast傘下)が開発する、老舗の無料データ復元ソフト。シンプルで分かりやすいインターフェースが特徴で、初心者にも扱いやすい。誤って削除したファイル、フォーマットされたドライブ、破損したディスクからのデータ復元に対応。
- 対応OS: Windows 11, 10, 8.1, 8, 7, Vista, XP (32bit/64bit)
- 主な対応ファイル形式: 写真、音楽、ドキュメント、ビデオ、メールなど多数。
- 無料版の制限: 基本的な復元機能は無料でほぼ無制限に利用可能。有料版 (Recuva Professional) は、仮想ハードドライブのサポート、自動アップデート、プレミアムサポートなどが追加される。
- 操作性: 非常に良い。ウィザード形式で簡単に操作可能。
- メリット: 完全無料に近い形で利用できる、動作が軽快、ポータブル版もあるためインストール不要で利用可能。
- デメリット: 近年アップデート頻度が低下気味、ディープスキャン能力は最新の有料ソフトに比べると劣る場合がある。
- 簡単な使い方:
- Recuva公式サイトからダウンロードし、インストール(またはポータブル版を実行)。
- ウィザードに従い、復元したいファイルの種類と場所を選択。
- スキャンを開始(必要に応じて「詳細スキャンを有効にする」にチェック)。
- 検出されたファイルリストから復元したいファイルを選択し、復元先を指定して復元。
4.2 EaseUS Data Recovery Wizard Free (Windows/Mac)
- 特徴・強み: 高い復元率で知られるデータ復元ソフトの無料版。洗練されたインターフェースで、初心者でも比較的簡単に操作可能。誤削除、フォーマット、パーティション損失、OSクラッシュなど幅広いトラブルに対応。
- 対応OS: Windows 11/10/8.1/8/7, Windows Server / macOS Sonoma から OS X 10.9 まで。
- 主な対応ファイル形式: 1000種類以上のファイル形式に対応(写真、動画、音声、ドキュメント、メールなど)。
- 無料版の制限: Windows版、Mac版ともに最大2GBまでのデータ復元が可能(500MBはデフォルト、追加1.5GBはSNSでの共有でアンロック)。
- 操作性: 非常に良い。3ステップ(スキャン、プレビュー、復元)で操作可能。
- メリット: 高い復元率、豊富な対応ファイル形式、プレビュー機能が充実。
- デメリット: 無料版の復元容量が2GBと制限がある。
- 簡単な使い方:
- EaseUS公式サイトからダウンロードし、インストール。
- ソフトを起動し、データ損失が発生したドライブを選択して「スキャン」をクリック。
- スキャンが完了すると、検出されたファイルがツリー表示とファイルタイプ別に表示される。
- 復元したいファイルをプレビューで確認し、選択して「リカバリー」をクリック。復元先を指定。
4.3 Disk Drill (Windows/Mac)
- 特徴・強み: Mac版で高い評価を得ており、Windows版も提供。スタイリッシュなインターフェースと多機能性が特徴。データ復元だけでなく、ディスクの健康状態監視やデータ保護機能(Recovery Vault)も搭載。
- 対応OS: Windows 11/10/8.1/8/7 / macOS Sonoma から OS X 10.8.5 まで。
- 主な対応ファイル形式: 400種類以上のファイル形式に対応。
- 無料版の制限: Windows版、Mac版ともに最大500MBまでのデータ復元が可能。ただし、スキャンとプレビューは無制限。データ保護機能「Recovery Vault」は無料で利用可能。
- 操作性: 良い。モダンで分かりやすいインターフェース。
- メリット: 多機能(データ保護、ディスククリーンアップなど)、プレビュー機能が強力。
- デメリット: 無料版の復元容量が500MBと少ない。
- 簡単な使い方:
- Disk Drill公式サイトからダウンロードし、インストール。
- ソフトを起動し、復元したいドライブを選択して「失われたデータを検索」をクリック。
- スキャン後、見つかったファイルを種類別にフィルタリングしたり、プレビューしたりできる。
- 復元したいファイルを選択し、復元先を指定して「復元」をクリック。
4.4 PhotoRec (Windows/Mac/Linux)
- 特徴・強み: オープンソースで開発されている強力なデータ復元ツール。TestDiskというパーティション復旧ツールとセットで提供される。ファイルシステムが大きく破損していても、ファイルシグネチャに基づいてRAWデータをスキャンし復元を試みる。
- 対応OS: Windows, macOS, Linuxなどクロスプラットフォーム対応。
- 主な対応ファイル形式: 写真、動画、アーカイブ、ドキュメントなど非常に多くのファイル形式に対応(480以上のファイル拡張子ファミリー)。
- 無料版の制限: 完全に無料。復元容量や機能に制限なし。
- 操作性: やや難あり。コマンドラインインターフェース(CUI)が基本だが、QPhotoRecというGUIフロントエンドも存在する。初心者には敷居が高い。
- メリット: 完全無料、非常に強力な復元能力、対応ファイル形式が豊富、クロスプラットフォーム。
- デメリット: 操作が難解で初心者向きではない。ファイル名やフォルダ構造は復元されないことが多い。
- 簡単な使い方 (CUIベースのPhotoRec):
- CGSecurity公式サイトからTestDisk & PhotoRecをダウンロードし、解凍。
photorec_win.exe
(Windowsの場合) を実行。- キーボード操作で、復元対象のドライブ、ファイルシステムの種類、スキャン範囲(空き領域のみ or 全体)などを選択。
- 復元するファイルの種類を選択(オプション)。
- 復元データの保存先ディレクトリを指定。
- スキャンと復元が開始される。
4.5 Microsoft Windows File Recovery (Windows 10以降)
- 特徴・強み: Microsoftが公式に提供するコマンドラインベースのデータ復元ツール。Windows 10 May 2020 Update (バージョン2004) 以降で利用可能。比較的新しいツールだが、公式提供という安心感がある。
- 対応OS: Windows 10 バージョン2004以降、Windows 11。
- 主な対応ファイル形式: NTFS, FAT, exFAT, ReFSファイルシステムに対応。MP3, MP4, PDF, JPEG, Word/Excel/PowerPointファイルなど主要な形式をサポート。
- 無料版の制限: 完全に無料。
- 操作性: 難あり。コマンドプロンプトでの操作が必要なため、初心者には非常にハードルが高い。
- メリット: Microsoft公式ツールである安心感、完全無料。
- デメリット: コマンドライン操作が必須で難解、復元率や機能は専用ソフトに比べて限定的な場合がある。
- 簡単な使い方:
- Microsoft Storeから「Windows File Recovery」をインストール。
- コマンドプロンプトを管理者として実行。
- コマンド
winfr <ソースドライブ>: <復元先ドライブ>: [/mode] [/switches]
を使用。- 例:
winfr C: D: /regular /n \Users\<username>\Documents\*.docx
(Cドライブの特定ユーザーのドキュメントフォルダからdocxファイルをDドライブに復元) - モードには
Default
,Segment
,Signature
があり、状況に応じて使い分ける。
- 例:
4.6 簡単比較表
※操作性:◎非常に良い、〇良い、△やや難、×難しい
第5章:データ復元作業を安全かつ効果的に行うための実践ガイド
無料データ復元ソフトを使う際に、復元率を高め、安全に作業を進めるための重要なポイントを解説します。
5.1 鉄則1:復元したいデータがあるドライブへの書き込みを絶対に行わない
何度も強調しますが、これが最も重要です。データが削除されたドライブに新しいデータが書き込まれる(上書きされる)と、復元の可能性は著しく低下します。インターネットの閲覧、ファイルのダウンロード、新しいアプリケーションのインストールなどは絶対に行わないでください。
5.2 鉄則2:ソフトのインストールは復元対象外のドライブか外部メディアへ
データ復元ソフト自体を、復元したいデータが含まれるドライブにインストールすると、そのインストール行為によってデータが上書きされてしまう危険性があります。可能であれば、別の内蔵ドライブ、外付けHDD、またはUSBメモリなどにソフトをインストール(またはポータブル版を配置)して実行しましょう。
5.3 鉄則3:復元データの保存先は必ず元のドライブとは別の場所を指定する
復元に成功したデータを、元のドライブ(データが消えたドライブ)に保存してしまうと、他のまだ復元されていないデータや、復元中のデータ自体を上書きしてしまう可能性があります。必ず、別の物理ドライブ(外付けHDDやUSBメモリなど)を保存先として指定してください。
5.4 スキャン方法の選択:クイックスキャンとディープスキャン(フルスキャン)の使い分け
多くのソフトには、短時間で基本的なスキャンを行う「クイックスキャン」と、より時間をかけて詳細にスキャンする「ディープスキャン」(またはフルスキャン、RAWスキャン)のオプションがあります。
- クイックスキャン: ファイルを誤って削除した直後など、ファイルシステムの損傷が軽微な場合に有効です。短時間で結果が出ることが多いです。
- ディープスキャン: クイックスキャンで目的のファイルが見つからなかった場合や、ドライブをフォーマットしてしまった場合、ファイルシステムが破損している場合に試します。時間はかかりますが、より多くのファイルを発見できる可能性があります。
まずはクイックスキャンを試し、見つからなければディープスキャンを実行するという手順が一般的です。
5.5 復元結果のプレビュー機能を活用する
多くのデータ復元ソフトには、スキャンで見つかったファイルを実際に復元する前に、内容をプレビュー表示する機能が搭載されています。特に画像ファイルやドキュメントファイルなどは、プレビューで中身を確認することで、本当に復元したいファイルかどうかを判断できます。これにより、不要なファイルまで復元してしまう手間を省けます。
5.6 復元後のファイルの整合性チェック
データが復元できても、ファイルが部分的に破損している場合があります。特に動画ファイルや複雑な構造のドキュメントファイルなどは、復元後に開いてみて、正常に再生・表示されるかを確認しましょう。完全に元通りとはいかないケースもあることを理解しておく必要があります。
第6章:無料ソフトで復元できなかった… 次に検討すべき選択肢とは?
無料のデータ復元ソフトを試しても目的のデータが取り戻せなかった場合、次にどのような手を打つべきでしょうか。
6.1 有料データ復元ソフトへのステップアップ(機能、サポート、復元率の違い)
前述の通り、有料のデータ復元ソフトは、無料版に比べて以下のような利点があります。
- より高度な復元アルゴリズム: 複雑なデータ損失状況からの復元率が高い傾向にあります。
- 豊富な機能: RAID構成からのデータ復元、起動しないPCからのデータ救出、破損した動画や写真の修復機能などを搭載している場合があります。
- 復元容量の制限なし: 大量のデータを一度に復元できます。
- テクニカルサポート: 問題発生時に専門のサポートを受けられる安心感があります。
多くの有料ソフトは無料体験版を提供しており、スキャンして復元可能なファイルを確認するところまでは無料で行えます。実際に復元したいファイルが見つかった場合にのみ購入を検討できるため、リスクは低いです。代表的な有料ソフトとしては、EaseUS Data Recovery Wizard Pro, Disk Drill Pro, Stellar Data Recovery, Wondershare Recoveritなどがあります。
6.2 データ復旧専門業者への依頼を考えるべきケース(物理障害、重度論理障害)
ソフトウェアでは対応できない以下のようなケースでは、専門のデータ復旧業者への依頼を検討する必要があります。
- 物理障害:
- ハードディスクから異音(カチカチ、ギーギーなど)がする。
- ドライブが全く認識されない(BIOSレベルでも認識しない)。
- 水没、火災、落下などによる物理的な損傷がある。
- 重度の論理障害:
- 複数のデータ復元ソフトを試しても全く効果がない。
- RAID構成が複雑に破損しており、自分での復旧が困難。
- データの重要性が非常に高く、失敗が許されない。
専門業者は、クリーンルームなどの特殊な設備や高度な技術を用いて、物理的な修復やデータの抽出を行います。
6.3 専門業者選びの注意点(見積もり、実績、セキュリティ対策)
データ復旧業者に依頼する際は、以下の点に注意して慎重に選びましょう。
- 無料の初期診断と見積もり: まずはメディアの状態を診断してもらい、復旧の可能性と費用の見積もりを出してもらいましょう。見積もり以上の追加費用が発生しないか確認が必要です。
- 実績と評判: 過去の復旧実績や顧客のレビューなどを参考に、信頼できる業者を選びましょう。
- セキュリティ対策: 個人情報や機密データが含まれる場合、業者のセキュリティ対策(プライバシーポリシー、情報管理体制など)がしっかりしているか確認します。
- 料金体系: 成功報酬型か、作業費が発生するのかなど、料金体系を明確に理解しておくことが重要です。一般的に、データ復旧費用は数万円から数十万円、場合によってはそれ以上かかることもあります。
第7章:未来のデータ消失を防ぐために – 最も確実な予防策
データ復元ソフトや専門業者は、万が一の際の頼れる存在ですが、最も重要なのはデータ消失を未然に防ぐことです。
7.1 定期的なバックアップの重要性と具体的な方法(クラウド、外付けHDDなど)
「バックアップは最高のデータ復旧策」と言われます。大切なデータは、必ず複数の場所にコピー(バックアップ)しておきましょう。
- 外付けハードディスク/SSD: 手軽で大容量のデータを保存できます。定期的に手動でコピーするか、OSのバックアップ機能(Windowsの「ファイル履歴」、Macの「Time Machine」など)を利用しましょう。
- クラウドストレージ: Google Drive, OneDrive, Dropbox, iCloudなどのクラウドサービスを利用すれば、インターネット経由で自動的にバックアップ・同期が可能です。災害時にもデータが安全です。
- NAS (Network Attached Storage): 自宅やオフィス内に設置するネットワーク接続型ストレージ。複数のデバイスでデータを共有・バックアップできます。
- 3-2-1ルール: データを3つ以上のコピーで保持し、2種類以上の異なるメディアに保存し、そのうち1つはオフサイト(別の場所)に保管するという考え方です。
7.2 データ取り扱い時の注意点(安全な取り外し、不用意な削除防止)
- USBメモリや外付けHDDは、必ずOSの「安全な取り外し」操作を行ってから抜く。
- 重要なファイルを削除する際は、本当に不要か再確認する癖をつける。
- 不審なメールの添付ファイルを開いたり、怪しいウェブサイトを閲覧したりしない(マルウェア感染によるデータ破損・消失を防ぐ)。
7.3 OSやセキュリティソフトの最新化
OSやアプリケーション、セキュリティソフトを常に最新の状態に保つことで、システムクラッシュやマルウェア感染のリスクを低減できます。
まとめ:無料データ復元ソフトを賢く使いこなし、大切なデータを守ろう
この記事では、無料のデータ復元ソフトを中心に、データ消失時の対処法から予防策までを解説しました。
無料データ復元ソフトは、万能ではありませんが、多くの一般的なデータ消失ケースにおいて、費用をかけずにデータを救出できる可能性を秘めた強力なツールです。しかし、その限界を理解し、ソフトの特性(対応OS、ファイル形式、復元容量制限など)をよく確認した上で、安全な手順で利用することが何よりも重要です。
そして、データ復旧作業はあくまで最終手段です。最も確実なのは、日頃から大切なデータのバックアップを習慣づけることです。未来の「しまった!」を防ぐために、今日からでもバックアップ体制を見直してみてはいかがでしょうか。
この記事が、予期せぬデータトラブルに見舞われたあなたの不安を少しでも和らげ、失われた大切なデータを取り戻すための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。